「木」へのこだわり「木」を巡る対話
「調達・加工担当者」との対話目利きとは
木の潜在価値を
見極めること


森林資源を持続的に活用し、高品質な家具づくりを続けるために、カリモク家具ではさまざまな技術やノウハウを蓄積してきました。その起点となるのが、資材工場における調達と加工です。カリモク家具は、国内に3拠点、海外に1拠点資材工場があります。そのうちの一つ、知多カリモクでも、木材という自然の恵みを無駄なく使うために日々知恵を絞っています。取締役の三輪義保氏に、調達・加工の工夫や技術へのこだわりを伺いました。

知多カリモク株式会社
取締役
三輪 義保 氏
Miwa Yoshiyasu
1995年知多カリモク入社。木材の高圧水蒸気処理について研究していた大学時代、カリモク家具が大学の研究室に来ていた。大学の設備を使用するため入社後、マレーシアへの赴任、総合研究室や北海道の資材工場である大成産業への出向などを経験。現在は取締役として、人や取引先同士のつながり、チームワークを大切にしながら資材工場全体の管理を担っている。
1995年知多カリモク入社。木材の高圧水蒸気処理について研究していた大学時代、カリモク家具が大学の研究室に来ていた。大学の設備を使用するため入社後、マレーシアへの赴任、総合研究室や北海道の資材工場である大成産業への出向などを経験。現在は取締役として、人や取引先同士のつながり、チームワークを大切にしながら資材工場全体の管理を担っている。
カリモク家具の家具づくりに、
独立した資材工場が
必要な理由
――資材工場とは、どんな役割を持った工場なのでしょうか?
三輪氏:カリモク家具は、主に木材を使って家具を作っています。資材工場とは、その木材を調達し、乾燥させ、初期加工を行う工場です。北海道や東北からはナラやブナ、クリ、北米からはウォールナットやブラックチェリー、メープル、マレーシアからはラバーウッド(パラウッド)を調達し、家具のパーツに加工しています。カリモクグループには、知多カリモク以外にも、国内では北海道と秋田、海外ではマレーシアに資材工場があります。製造工場の中に資材部門を抱える木製家具会社はたくさんありますが、木材の生産地近くに独立した資材工場を設けている家具メーカーは国内にはありません。
これはカリモク家具が、林業従事者を始めとしたステークホルダーとできる限り顔を合わせ、実際の原木を見て対話することを大切にしているからです。特にカリモク家具では、均一な木だけでなく、小径木や曲がった木、節が多い木も積極的に使っています。こういったばらつきのある材料を管理して安定的に家具を作り続けるためには、調達先との密なコミュニケーションが欠かせません。
――なるほど。ただ、均一な板を使う方が加工が容易だと思うのですが、なぜばらつきのある材料を使うのでしょうか?
三輪氏:一般的な材木屋、製材屋が扱う板は、フローリング用や建材用など多用途に使われるので、サイズと品質が保たれています。逆に言えば、一定品質の板を生産できる木だけを製材しているということ。その基準を満たせない原木は、伐採されても価格の安い燃料用チップになります。伐採コストは同じなのに、林業従事者に入るお金は減ってしまうのです。農家の方にとっての規格外品と同じです。林業は昔から3K(きつい、汚い、危険)と言われる大変な仕事であり、儲けが少ないとさらに担い手が減ってしまう。すると森林の手入れが行き届かなくなり、森が荒れるという悪循環に陥ってしまいます。
そこでカリモク家具では、これまで燃料用チップになっていた規格外の原木であっても、我々独自の基準を満たせば製材板用と同じように、伐採の採算に見合った価格で取引しています。木製家具には小さい部品もあり、ばらつきがあっても工夫すれば十分に使えますから。
とはいえ、どんな板でも使えるわけではなく、短い材料や幅の狭い材料を丁寧に仕分けする必要があります。それをさらに乾燥、接着して家具に使えるパーツに仕上げるためには、木の特性を熟知したプロフェッショナルが不可欠だし、効率よく、高精度に加工するための機械も必要。工場の中の一工程として資材部門があるだけでは行き届きません。資材工場を独立させて調達・加工に特化できる体制を整えてきたのは、木を伐り出すところから、家具作りのすべてに目を配りたいというカリモク家具の想いの表れでもあります。

木の成長の証を大切にし、
木を無駄なく活用する
独自の乾燥・加工体制
――木材を加工する上で大切にしていることはありますか?
三輪氏:木は生き物です。木は伐採後に割れたり、反ったりします。これらは全て木の中の水分量が変化し、木が収縮することで起こる現象なので、乾燥工程をとても大切にしています。乾燥をしっかり行い適切な含水率にすることで、割れたり反ったりしにくくします。カリモク家具の資材工場では、自然乾燥のための広大な敷地を確保して、人工乾燥機も導入しています。
乾燥技術は独自に改善活動を続けています。実は、乾燥工程のスケジュールには数えきれないほどの組み合わせがあります。投入する木の初期含水率、厚み、投入量、乾燥時間、温度、期間など。カリモク家具では、家具の自社生産を始めた1960年代から、先人たちがその組み合わせを繰り返し試して、木材品質を高く保つための乾燥プロセスを築き上げてきました。
――どのようなスケジュールで乾燥しているのですか?
三輪氏:まず、半年ほどかけて天日で自然乾燥します。この時、板と板の間に“桟木”と呼ばれる定厚の棒を挟みながら交互に積み上げ、風の通り道を作ります。桟木は同じ位置に荷重がかかるようにゲージを使用してまっすぐ積みます。こうすることで、乾燥期間中の板のソリを最小限に抑えます。その状態で含水率を一定程度まで落とし、その後は乾燥室で2ヶ月かけて人工乾燥します。最終的に、通常家具作りに適しているとされる含水率よりも厳しい基準である、8%まで乾燥を行います。
――なるほど。どの木も、そのスケジュール通りに乾燥することで割れや反りを防ぐことができるのでしょうか?
三輪氏:そんなことはありません。木材も生き物なので個体差はありますし、伐採された時期によって含水量も違い、板の厚みや木目の形状によって水分の抜け方も違います。単純に同じ条件で乾燥すれば同じ仕上がりになるというわけではありません。毎日、切り出したサンプル片の重量を測り、その変化にあわせて乾燥ステップを進めていきます。
つまり、先人が築いたスケジュールを基本にしながらも、毎日木の動きを見て、調整して、同じ品質に仕上げるということ。このノウハウもカリモク家具の財産だと思っています。
それに、乾燥プロセスもこれが正解かどうかは分かりません。これまでの経験則からいって今の所ベターですが、完成形とは思っていないのです。最終製品の品質をもっと高めていきたいし、日々木材の品質を保ちながら時間を縮めていく努力を日々しています。
――パーツに加工する際にも、カリモク家具ならではの技術やこだわりがあるのでしょうか?
三輪氏:はい、あります。まず、木材を家具のパーツに応じて必要な寸法に切り出す「木取り」を行います。最終製品を見越した木取りは、どの家具メーカーでもやっていますが、カリモク家具は、独立した資材工場でこの工程に非常に手間をかけています。なぜなら、私たちは節や「斑」と呼ばれる帯状の木目、シミなどがある木材も用途に応じて使っているからです。 一枚一枚の木材を目で見て確認し、サイズや色合い、木目によって分類します。そして、節や木目が家具のどの部分にどのように現れるか、までを考えて、あるいは見えないように工夫して木取りする。それが家具の最終的な仕上がりに影響するのです。
我々は、材料の見極め、つまり目利きも大切にしています。我々にとって目利きとは、「より良質な木を見極めること」でなく、「家具部材として活きる、木の潜在価値を見極めること」です。家具になったときの最終形を考え、節の近くをどの部分でカットするのか、どのサイズまでなら木材をつなげて使うことができるのかなど、適材適所で材料を使う「資材の目利き」を大切にしています。
――そもそもなぜ木材には木目や節があるのですか?
木は生き物なので、環境によって成長スピードが異なります。温暖な夏に成長し、冬はあまり成長しません。これが木目として現れます。
さらに、木は成長する過程で枝をつけます。枝は、太陽のあたる上の方がどんどん成長し、相対的に日当たりが悪くなった下の方の枝は、何年も経つと段々枯れていきます。こうして枯れた枝の根元は、さらに年月が経つと幹に取り込まれていきます。これが節になり、製材する向きによって杢(もく)になります。これらは、状態によって、節、杢、斑、シミなどとして現れます。これらは全て木の成長の証であり、プリントではなく本物の木である証拠です。カリモク家具では、それらを木の個性として捉えて「ナチュラルマーク」と呼んでいます。


木の供給事情から
ものづくりを考え、
持続可能な木材利用へ
――資材工場の重要性がよくわかりました。森林資源を持続的に活用するために、資材工場ではこれまでどんなことをされてきたのでしょうか?
三輪氏:これまで、ナチュラルマークを個性として活用する提案をしたり、幅の狭い材料を貼り合わせることで幅の広い材料と同じように使えるように提案をしたりしています。山から採れる素材をうまく活用するために、常にベストを探り続けています。
――素晴らしいですね。では今後、持続可能な木材利用のために取り組んでいきたいことはありますか?
三輪氏:カリモク家具では、新しい材料を積極的に取り入れはじめています。山には、ナラだけでなく、クリやホウ、ケヤキ、サクラなどたくさんの樹種が生えています。
これらの、今まで“未利用”といわれていた樹種も使用することが、本当の意味での資源の有効活用であると考えます。
ただ、活用にはハードルもあります。一つは、人の手で管理されている針葉樹とは違って、広葉樹は自然に生えているので、点在していて安定供給が難しいということ。コンスタントな材料集荷が難しいということです。もう一つは、国産材は強度が低いものが多いということ。家具の種類によってはパーツとして高い強度が求められるものがありますが、樹種によっては強度が弱いものも多いため、工夫して活用していかなければなりません。
そのために、いままでナラやウォールナットを無駄なく使うために培ってきた技術を応用し、これらの問題を解決する手段としています。
――そのハードルをどのように越えようとしているのでしょうか?
三輪氏:基本的なことですが、加工技術を磨き、工夫を凝らすことです。安定的な集荷が難しい材料でも、フィンガージョイント集成材にミックスで使用し、中心の見えない部分に使用することで使い込みを図ることができます。
強度の足りない材料を使用する場合には、中心部分に強度のある材料を使用して強度を担保しながら、表面材として使用することができるようにします。
また、将来の需要を見越して、予め材料を購入し、準備しておくことも重要です。木材は、伐採してから、家具になるまでに半年以上、場合によっては2年かかることもあります。常にお客様からの様々な要望に応えられるよう、トレーサビリティーの効く状態で、材料をストックしています。最近では、施設の建設予定地に生えていた材料を伐採し、建設後の施設に納入させて頂くような取り組みもしています。

技術を継承するための
次世代との対話
――持続可能な森林利用のために、次世代にはどのように技術を継承していきたいと考えていますか?
三輪氏:世代に関係なく、木を好きな方は沢山いらっしゃいます。学校では環境に関する授業があって、環境保全に対する感度も高く、天然素材である木によいイメージを持っていただいています。
カリモク家具には彼らの期待に応えるような、自然の恵みである木に感謝し、余すことなく使うことを大切にする価値観があります。これまでも取り組んできましたが、そういった価値観を若い世代に受け継いでいく活動により一層取り組みたいと思っています。
――三輪さんご自身は、どんな想いで木材に向き合っていますか?
三輪氏:テクノロジーの進化によって、毎日は便利になりましたが、一方で心の豊かさは減り、ストレスは増えたように感じます。そんな中で、心の平穏を保つために人が戻る場所は、やはり自然だと思います。生活の中に自然をどう取り込んでいくかが大切だと感じています。だからこそ家具や住宅の内装における木が見直されているのだと思います。
木を扱うこの仕事は、人と自然のつながりを途切れさせないために、そして森林や木を未来へとつなげるためにとても大切な仕事だと思います。そんな想いをお客様にも伝えられるように、これからも家具づくりに向き合い続けたいと思います。
